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広島高等裁判所岡山支部 昭和44年(ネ)8号 判決

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人らは被控訴人に対し、各自金一八九万四、一〇四円及びこれに対する昭和四一年六月一六日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

被控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じてこれを三分し、その一を被控訴人の、その二を控訴人らの各負担とする。

この判決は被控訴人勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

控訴人らにおいて、各自金一二〇万円の担保を供するときは、右仮執行を免れることができる。

事実

(当事者の求める裁判)

一  控訴人ら 「原判決中、控訴人ら敗訴部分を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決。

二  被控訴人 「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人らの負担とする。」旨の判決。

(当事者の主張及び証拠)

当事者双方の事実上の主張並びに証拠関係は次に付加するほか原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  控訴人鷲羽会社の主張

(一)  被控訴人は本件事故のため労働者災害補償保険法により療養補償として入院費金四一万八、五四四円及び入院外費用金三九万一、一五二円、休業補償として金二五万八、一七四円、合計金一〇六万七、八七〇円の給付を受けているから、これを損害金から控除すべきである。

(二)  控訴人鷲羽会社は見るべき資産、収入がなく経営不振につき多額の損害金の支払を強制されると倒産は必至であるから、その賠償額を考慮さるべきである。

二  控訴人安原会社の主張

(一)  控訴人鷲羽会社の右(一)の主張を援用する。

(二)  被控訴人は控訴人鷲羽会社より損害金の一部弁済として金七万一、〇〇〇円の支払を受けているから、これを控除すべきである。

三  被控訴人の認否

(一)  労災保険より受領した金員は既に本訴請求金額からすべて控除済みである。

(二)  控訴人鷲羽会社より金七万一、〇〇〇円を受領したことは認める。

四  証拠〔略〕

理由

一  本件交通事故の発生とこれにつき控訴人鷲羽会社が自賠法三条により、控訴人安原会社が民法七一五条により各責任を負うべきことについての当裁判所の認定判断は、原判決の説示と同一であるから、これ(原判決二枚目裏六行目から三枚目裏六行目までと八枚目裏三行目から一三枚目裏八行目まで)を引用する。

二  そこで被控訴人の損害につき判断する。

(一)  逸失利益について

〔証拠略〕によれば、被控訴人は大正二年九月一六日生れの本件事故当時満五一才の健康な女子であつて、失対人夫として比較的軽微な肉体労働に従事していたことが認められ、第一一回生命表によると満五一才の女性の平均余命は二五・一七年であり、また緊急失業対策法が特に高令失業者(六〇才以上)の就労事業の実施についても規定している趣旨等から考えて、被控訴人は少くとも満七〇才に達する昭和五八年九月一六日まで就労可能であつたとみられる。

そして、〔証拠略〕によれば、被控訴人は本件事故により蒙つた傷害の後遺症、特に輸血により併発した血清肝炎のためもはや就労不能の状態となつたことが認められ、これに反する証拠はない。

(1)  昭和四〇年五月一三日から昭和四二年七月末日までの逸失利益

〔証拠略〕によると、被控訴人は本件事故当時、失対人夫として日給四九五円、平均月額九、〇〇〇円の資金を得ていたので、これを基準として右期間の逸失利益を月毎ホフマン式計算法により月一二分の五パーセントの割合による中間利息を控除して、本件事故発生時の一時払の価額に引き直して算出すると金二二万九、八二三円(別紙計算表(1)記載のとおり)となるところ、〔証拠略〕によれば、被控訴人は右期間に労基法に基づく休業補償として合計金一八万四、二二四円の給付を受けていることが認められるから、結局これを差引いた金四万五、五九九円が右期間内の損害である。

(2)  昭和四二年八月から昭和四三年四月末までの逸失利益

〔証拠略〕を綜合すると、昭和四二年八月以降被控訴人の賃金は日給六七〇円、平均月額一万二、一八一円に上昇したものと推認されるから、これを基準として右期間の逸失利益を月毎ホフマン式計算法により月一二分の五パーセントの割合による中間利息を控除して、本件事故発生時の一時払の価額に引き直して算出すると金九万六、七四〇円(別紙計算表(2)記載のとおり)となるところ、倉敷労働基準監督署長に対する調査嘱託の結果によれば、被控訴人は右期間に休業補償として合計金六万四、二七二円(別紙計算表(3)記載のとおり)の給付を受けたことが認められるから、結局これを差引いた金三万二、四六八円が右期間内の損害である。

(3)  昭和四六年一〇月から昭和五八年九月一六日までの逸失利益

前記認定の平均月収一万二、一八一円を基準として右期間の逸失利益を月毎ホフマン式計算法により月一二分の五パーセントの割合による中間利息を控除して、本件事故発生時の一時払の価額に引き直して算出すると金一〇八万七、〇三七円(別紙計算表(4)記載のとおり)となる。

(二)  治療費及び慰謝料については、当裁判所も原判決認定の限度で認容すべきものと判断し、その理由も原判決説示のとおりであるから、これ(原判決一七枚目裏二行目から一八枚目表五行目まで)を引用する。

三  控訴人らは、被控訴人が労災保険より受給した補償は本件損害より控除すべきであると主張するので検討してみるに、療養補償として合計金九四万八、四一二円が妹尾病院及び大阪医大附属病院に支払われていることは前掲調査嘱託の結果により明らかであるが、被控訴人が本訴において請求している治療費は右以外の未払分金三〇万円であり(既に認定したとおり)、また休業補償についても本訴で請求している関係期間(昭和四〇年五月一三日から昭和四三年四月末まで)に支給された分については既に控除済みであつて、その後昭和四三年五月以降昭和四四年八月末までの間も引続き支給されていることが調査嘱託の結果により窺われるが、〔証拠略〕によれば、被控訴人は昭和四三年五月から昭和四六年九月末まで一、二〇〇日間の逸失利益についてはこれを打切補償の対象に相当するものとして本訴において控除し請求していないと解されるところ、控訴人らの補償の主張は右の範囲を超えるものとは言えないから判断の限りでなく、控訴人らの右主張はいずれも採用できない。

四  控訴人鷲羽会社の経営不振に関する主張は、たとえそうであるとしても、かかる事情は賠償額を定めるにつき何ら斟酌さるべき事柄ではないから、主張自体理由がない。

五  損害の補填等

被控訴人が自賠法の保険金三〇万円及び控訴人鷲羽会社より損害賠償の一部弁済として金七万一、〇〇〇円、合計金三七万一、〇〇〇円の支払を受けていることは当事者間に争いがないから、本件損害は総額金二二六万五、一〇四円から右金員を控除した金一八九万四、一〇四円が残存していることになる。

六  以上の次第で、控訴人らは本件事故による損害賠償として被控訴人に対し、各自金一八九万四、一〇四円及びこれに対する本件訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和四一年六月一六日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるから、被控訴人の本訴請求に右の限度で理由があり、その余は失当として棄却を免れない。

よつて、これと異る原判決は失当であり、本件控訴は一部理由があるから、原判決を前説示の限度に変更すべく、民訴法九六条、八九条、九二条、九三条、一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 胡田勲 中原恒雄 永岡正毅)

(別紙) 計算表

(円及び月未満はいずれも四捨五入)

(1) 40、5、13~42、7、末の逸失利益

月収 9,000円 期間27ケ月

9,000円×25.53584129=229,823円

(2) 42、8~43、4、末の逸失利益

計算方法、事故発生時より43、4、末までの全期間の現価から事故発生時より42、7、末までの期間の現価を差引く方法。

月収 12,181円 期間{40、5、12~43、4、末 36ケ月

40、5、12~42、7、末 27ケ月

12,181円×(33.47773345-25.53584129)=96,740円

(3) 同期間の休業補償

42、8~43、3、末 244日分、1日につき228円(平均賃金の6割)

43、4~43、4、末 30日分、1日につき288円(平均賃金の6割)

以上合計 288円×244+288円×30=64,272円

(4) 46、10~58、9、16の逸失利益

計算方法 (2)に同じ

月収 12,181円 期間{40、5、12~58、9、16 220ケ月

40、5、12~46、9、末 77ケ月

12,181円×(155.90213814-66.66178122)=1,087,037円

以上

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